(80)『居は気を移す』って・・・。

ご存じかもしれませんが、あなたは『居(きょ)は気を移す』という言葉を聞いたことはありますか?

孟子が「尽心上」に記した一節で、『住む場所や環境が、その人に与える影響は大きい』という意味だそうです。

私たちが暮らす住まいは、ただの器ではありません。家族の人間性を作り上げている大きな存在なのです。

例えば、忙しい生活をこなすために、便利さを重視した家があります。

その他にも、予算が少ないために、金額を重視した家もあります。

もし、その家が家族の人間性を作り上げると知っていたら、利便性や金額だけを重視した家をつくるでしょうか?

家にいる間、ずっとその考え方に浸ると考えると・・・、ちょっと怖いかもしれませんね。

家族の成長に対応できない家を「粗大ごみ」と表現した人がいるそうです。その「粗大ごみ」に数十年も住む家族は、自身が粗大ごみ化していくといいます。

子どものために建てた家は、やがては高齢者だけが暮らす家へとなります。その変化に対応できない家は「粗大ごみ」と言われても仕方ないのでしょうか?

さて、世の中にはいろんな方がいらっしゃいます。

「IHで、お掃除の負担を減らしたい」と、IHクッキングヒーターを導入した女性。

彼女は入居後2年間、そこで魚を焼いたことがありません。

「だって、汚れるじゃない」、これからも焼くつもりはないとのこと。

こんな方も居られるようです。

「花粉症だから、浴室暖房乾燥機があると助かる」という女性。

洗面所にある洗濯機で洗濯した後、隣の浴室で乾燥できるので、作業同線が非常に短く楽です。花粉が飛ぶ時期が過ぎても、ずっと浴室に干すようになりました。

「だって楽やん!!!」とのこと。

ひょっとしたら、住まいに自分をつくられてしまっているのかもしれませんね。

あなたが、旅行や実家への帰省を満喫して帰宅したとき、「ああ、やっぱり家が一番落ち着くな?」と思ったことはありませんか?

すでにそれだけ、あなたは住まいと同化しているということではないでしょうか?

そのように大きな影響を持つ「家」ですから、家づくりの最初の最初、基本中の基本を大切にして頂ければと思います。

それは、「その家で、家族がどんな生活をしたいのか。今後どのように成長したいのか」ということです。

「今の時代は、太陽光発電をつけなきゃ」、「オール電化は怖いから、ガスと併用しておく?」

それは、もう少し後で考えましょう。

まずは、新居でどんな暮らし方をしたいのか。あなたとご家族の幸せのための、もっと根っこの部分は何なのか。

毎日の掃除や定期的なメンテナンスをしなければ、やがてその住まいは傷んでいきます。

その大切な住まいをあなたが管理していくには、どんな家づくりが合っているのか・・・。

そう考え始めると、余計な見栄を張ることもなく、身の丈に合った家づくりができるかもしれないですね。

業者によっては、「あなたのためです」、「最近の流行ですから」と、自分本位の提案を出すところがあります。

そのときあなたが『居は気を移す』を知っておくと、より冷静に判断できるかもしれません。

ちなみにこの本文は、

『孟子范(はん)より斉(せい)に之(ゆ)き、斉王(せいおう)の子を望見し、喟然(きぜん)として嘆(たん)じて曰わく、居は気を移し、養は体を移す、と。大なるかな居や。夫(そ)れ尽(ことごと)く人の子に非(あら)ざるか、と。』

というものです。

こう考えると、家づくりの姿勢は、とても大切です。この『居は気を移す』は『孟母三遷』と通じるところがあります。

孟子の母親も、環境が人に与える影響を知っていました。だから、子どものためだけに引っ越しを繰り返すことができたのでしょう。

あなたの周りには、たくさんの新しい情報が溢れています。でも、古くから伝わる言葉の中には、時代を超えて大切にしたい考え方があります。

たまに振り返ってみると、今の自分に、一番必要な言葉が見つかるかもしれませんね。

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